脚注一覧
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あ行
引首印(いんしゅいん)
作品の右肩に作品の始まりを示すために押す印.関防印ともいう.多くは縦長の長方形であるが,楕円や天然石の形など,異形のものもしばしば見られる.座右の銘や好みのことわざなどの成語を刻してある.
絵篆刻(えてんこく)
世に"絵手紙"とか,"俳画"と呼ばれるジャンルがある.前者は手紙の文面に絵を添えたもの,後者は絵を添えた俳句若しくは俳句の付いた絵である.展示会などで眺めると,絵手紙の絵が手紙に対する添え物かと言うと必ずしもそうではなく寧ろ絵が主のように見える作品が多いように思う.俳画も同様のようで,俳句と絵が同じように得意な作者は自作の句に絵を添え,あまりいい句が詠めなかった作者は他人の句に自作の絵を添えているケースもあるようだ.まああまり堅苦しく考えることはないのだ.要は2つ融合して相乗効果が出ればしめたものだ.
翻って"絵+篆刻"はどうか?日本画や中国の山水画や水墨画のような分野では絵に落款印や場合によっては引首印等を押すのはごく普通に見られる様式であろう.特に中国では,絵に作者以外の,鑑賞した人や鑑定した人の印がベタベタ沢山押された作品に出合うこともある.また中国の著名な作家は書も,絵も,篆刻も...すべて一流といった方が多いようである.しかしそれでも"絵+篆刻"の作品の場合は絵が主役なのではなかろうか?これはこれからもいろいろな作品を調べて見たい.
筆者は俳画と同じ範疇,つまり相乗効果を狙った"絵+篆刻"を楽しんでみたいと思った.絵は単なる写真であったり,加工した写真である.このような作品の適当な名前が見つからなかったのを幸いに"絵篆刻"と称することにしたい.なんか越天楽のような響きも....まあ,相乗効果を狙って「どっちつかず」にならないようにしなければ.
か行
金文(きんぶん)
大辞林を引くと「青銅器などの金属器に刻まれた文字・文章.特に,中国殷・周代の青銅器の銘文をいう」
とある.
先祖供養の祭祀などで使用する青銅の鼎や,鐘,盤などに多く書かれていたようである.
金文は甲骨文字とほぼ同じ時代から発展したものだが,直線の甲骨文字とは対照的,造形が柔軟で曲線が多く装飾的な文字となっている.青銅器の鋳型には粘土など柔らかい素材が使われたから,これに刻まれた文字も曲線を用いて書けるのだ.
ところで,篆刻において,金文で刻もうとすると,篆書体に比べて文字サイズが一様でなく,左右の対称性に著しく欠き,....そんなためか,なぜがまとまりが悪いと言うか,.....でもなかなか面白いものができたりするから,時々彫って楽しんでいる.
青銅は銅(Cu)と錫(Sn)を主成分とする合金で,純銅はごく柔らかくまた融点も低いが錫を加えた青銅は硬くなる.青銅器文明という言葉があるくらい歴史上で重要な役目を果たした合金であろう.日本でも,時代はぐっと下るが,奈良の大仏様はよく知られた青銅製品であろう.752年に開眼供養が行われ,使用された金属は銅が500トン,錫が9トンで全高15mを8段に分け,下から順に鋳継いで鋳造したそうである.なお鋳造後,表面には金-水銀のアマルガムを塗り,加熱し,水銀を蒸発させ,金メッキを施したようだ.であるから多分多くのメッキ職人さんが水銀中毒になった可能性も高いであろう.
甲骨文(こうこつぶん)
大辞林を引くと「亀甲(きつこう)や獣骨に刻まれた中国殷(いん)代の象形文字.紀元前15世紀頃から使われたと考えられる,現存最古の中国の文字.占卜(せんぼく)の記録に用いられ,殷墟より多数出土.甲骨文.亀甲獣骨文.殷墟文字」
とある.
ナイフで硬い骨に刻み付けるから必然的に直線の多い書体となっている.とは言っても,我々が硬い石に印刀で彫るとき,丸い部分はちゃんと丸く彫るから甲骨文も丸い部分はもちろんある.また書体として見たとき,金文とは違いより,意外と共通性が目立つように思う.
金文や甲骨文は概して明朝体とか篆書体に比べてはデザインに統一性を欠き,素人目にはてんでばらばらといった印象を受ける.動物を表す文字などはとくにそのものズバリの象形要素の強い文字があり,なかなか面白い.尤もこれは金文にもあてはまろうが.
漢字は長い歴史を持つが,現存する最古のものは甲骨文で,以下のように発見されたようである.1899年,劉鶚氏は,北京の薬屋で買った「龍骨」(りゅうこつ)と称する骨の表面 に刻されている文字を偶然に発見し,甲骨文字の存在を学界に発表した.その後,さらに大量 な甲骨を集め,拓本に取り,公開した.当初発掘場所は骨董商以外にははっきりしなっかたが,やがて河南省安陽市付近の「殷墟」(いんきょ)と呼ばれていた地方で出土していたことが確認され,その後続々と発見された,とされている.
さ行
朱文印(しゅぶんいん)
←雅号印【無暦】の例.文字が朱の印.殆どの雅号印や遊印の多くに用いられるようだ.文字部分が凸になるように文字の周りを彫り込む.朱文印は縁も朱の線を設ける場合が圧倒的に多い.たしかに周囲に線がないと落ち着かない感じで線を入れずにはおられないことを実感する.
身土不二(しんどふじ)
「身(身体)と土(環境)とは不可分(不二)」「我が身と棲む地は二つならず,一体である」といった意.「食べものにも,その食べものが生産された土地の空気,気候環境,風土が宿り,同様に人間の体にも,生まれ育った土地の空気,気候環境,風土が宿っている.食べ物に宿っている風土と人体に宿っている風土が一致すればするほど体によい」と云ったように食物との関連で多用されるようだ.都市部はもちろん農村部でさえ急増するアレルギーやアトピーなどの現実に,この考えがしばしば見直されているようだ.
ところでこの言葉の原典はどこにあるのか?「身土不二の探究」と題する本を書かれた山下惣一氏の一文で,「原典は一三世紀に普度法師が書いた「盧山(ろざん)蓮宗寳鑑」で「盧山蓮宗」は五世紀に慧遠(えおん)という僧が中国江西省の盧山の東林寺で開いた宗派で日本の浄土宗,浄土真宗の先祖にあたる」とあった.そこで今度は中国語のサイトを探して覗いて見ると,日本專家提出「身土不二」的概念,指出這是他們....とか,“身土不二”是近年來韓國國内非常流行的一句口號....とか,「身土不二」源自日本自然醫學博士森下敬一的理念....とか,どれも日本の何とか,韓国の何とかで,今回はとりあえず原典への言及は見つからなかったのであるが,まあどこで言い出された言葉であっても普遍的真理を含んでいることは確かであろう.さもなければお国料理とか郷土料理とか....も生まれないのではなかろうか.
た行
鉄面皮(てつめんぴ)
2003年秋,所属篆刻クラブの先生が持参して講義して下さった田中仙樵の書に押された印影の1つにこの言葉があった.【鉄面皮】は,広辞苑第5版からそのまま転載すれば:鉄のような面の皮」の意. 恥を恥とも感じないこと.あつかましいこと.ずうずうしいこと.また,その人.厚顔.浮世床二「―だからどうもしれねへよ」.「―な男」. 田中仙樵がこの言葉の印を用いたように,既成観念に捕らわれず,時にはずうずうしく行動しないことには新しい世界は拓けない....といったポジティブな解釈も大事であろう.
英和辞典で鉄面皮を引くと,shameless; thick-skinned; unblushing; brazen-facedとかが並んでいて,黄銅(真鍮)が若干硬度が低めの合金であるにしても日本語とほぼ同一の表現法が可能であることが面白い.なお黄銅(真鍮)は銅(Cu)と亜鉛(Zn)の合金で,今久しぶりで周期律表なんぞ見たら,原子番号が29と30で隣り合わせだったんだ~ふ~ん(全然関係ない話だけど,一応成り行きで....)
篆刻(てんこく)
平たく言えばはんこの一種.主に篆書(体)と云う由緒あるフォントの漢字を刻することからこのように呼ばれる,と思っていた.念のためちゃんとした辞書で調べてみよう.広辞苑第五版によれば
てん‐こく【篆刻】(1)木・石・金などに印をほること.その文字に多く篆書(てんしよ)を用いるからいう.「―家」(2)文章の修辞・虚飾が多くて実用の伴わないこと.
とある.
(1)の解釈はまあ解り易い,がしかし,(2)の解釈を読むと,インチキ,いかさま,うさんくさい,信用できない....と思いっきりネガティブな壁が大きく立ちはだかり"篆刻を始めてみよう"などと云う気持ちは一気に消え失せそうである.幸い(?)筆者は広辞苑を引く前に篆刻クラブの門をくぐったので挫かれず済んだ.またクラブ諸先輩や講師の先生のレクチャーでこの解釈に触れられたためしはなかった.多分戦意を失わせまいとする親心から故意に触れられなかったのでろう.ただこのままではこれから篆刻をやってみようかな~という人に対して広辞苑第五版を引用した筆者としては申し訳ない気がする,念のためもっとちゃんとした解釈がないものか別の辞書,@niftyサイトの大辞林を引いてみよう.すると
てんこく【篆刻】 (名)スル 木・石などの印材に文字を彫ること.特に,書画などに用いる印章を作ること.多く篆書体を用いることからいう.印刻.
と,まあ真っ当な解釈が示されているではないか.よかった!ごく普通に「篆刻」を志す人は大辞林の解釈に従おう!!(なお私は三省堂の回し者ではありません,念のため)
篆書(てんしょ)
左は篆書の一例で,有名な斎白石先生の書の一文字【壽】をお借りしたものである.身近なところでは千円札や一万円札の表左下の赤丸ハンコ「総裁之印」(ちょっと読むのが難しい)が篆書体の文字である.ちなみに「日本銀行」やその上の「日本銀行券」「壱万円」の書体は篆書の後に現れた書体,隷書である.いくつかの篆書の文字を眺めていると楷書などに比べて線の太さが一定していたり,左右の対称性が高く感じられる.線の太さが均一であるのは,まだこの頃毛筆が発達していなかったためのようである.では篆書の定義はどんなものか@niftyサイトの大辞林を引いてみよう.すると
てんしょ 【篆書】漢字の古書体の一.大篆・小篆があり,隷書・楷書のもとになった.現在は,印章などに使われる.篆文(てんぶん).
と,説明されている. "古"書体とあるが,具体的には周の後,春秋戦国時代のようだ.特にかの秦の始皇帝が度量衡,通貨単位と並んで漢字を中国全土で統一したのだそうだ.う~ん,確かにISOやUS$に相当するような基準が仮に無ければあの広大な中国の支配はおぼつかなかったであろう.統一前諸国でそれぞれの篆書体が用いられ,大まかには「大篆(だいてん)」と称される.始皇帝がこれを簡略化し「小篆(しょうてん)」に統一したようだ.だから篆書は今から2500~2300年前に作られたことになろう.
しかしながら文字は生き物,ここ数十年の間でに中国では簡体字,日本でも国字や日本式簡略字が生まれており,当時もいろいろあったであろう.秦の後,漢の時代に入り,小篆を見出し字とする字典「説文解字」が編纂されこれが今日の規範となったようだ.「説文解字」の用語は現在日本で出版されている漢字字典でもよく現れる.
ところで英文表記はどんなになろうか?手元の研究社和英中辞典を引くと
【篆書】the seal-engraving style of writing Chinese characters
とあるが,これだと刻印の様式,と云ったニュアンスに筆者には響くのだが.....参考のため海外のサイトを覗いてみると,どうやら【篆書】 seal scriptとしているところが多いようだ.こっちだと「印に用いられる筆記体」でよりしっくりくるように思う.
な行
は行
白文印(はくぶんいん)
←遊印【鉄面皮】の例.
文字が白の印が白文印.殆どの姓,名,姓名印や遊印の多くに用いられる.筆の替わりに印刀に持ち替えて文字を書くようにすればよい,と書くのは簡単であるが筆者の場合なかなかそうはいかない.だから運刀は上から下に,左から右に一気に引いて刻するのが基本なのであろう.筆者の場合は引いて刻する方法はどうも線が真っ直ぐにならずうまくいかないので普通は押して彫ることにしている.
白文の場合は縁取りの線は無いことが多い.ただし線がある(つまり縁の内側に凹みがある)作品もしばしば見られる.出来上がった後で,周辺空間が広すぎて間が抜けた感じのするとき,ここに凹みを加えると引き締まった作品に変身できる場合もある.ただしこれは邪道であろうか?
ま行
や行
ら行
落款印(らっかんいん)
落款は完成の証として書画に筆者が押す印.署名の真下に姓名(若しくはその中の一文字など)印を押し,さらにその下に雅号印を押すことが多い.また,姓名印は白文で,雅号印は朱文であるのが一般的なようである.